水色のトヨタ・パッソ

わたしはパッソ。

 

5人乗りのコンパクトカー。

2006年の春にこの家に来たの。

 

 

わたしが売られていたのは、海の近くにあるとっても綺麗な町。

 

初めて来た時には、パパとママ、おじいちゃんとおばあちゃん、そして女の子と男の子の姉弟がいた。

青空みたいな水色のボディをみんな気に入ってくれて、「可愛い車だね」って言われるとすごく嬉しかったわ。

 

 

わたしを買ってくれたママは、いつもわたしを連れて移動や買い物に大忙し。

食材がいっぱい入ったスーパーの袋を、月に何回もトランクに積んだ。

 

白い傷がついた車のグローブボックス

上のお姉ちゃんは中学生になったばかりで、部活の送り迎えをするのもわたしとママの役目。

 

時々、学校で吹いていたトランペットを持ち帰ってくることがあって、グローブボックスによくケースをぶつけていた。

早くもキズがついちゃったもんだから、「もっと大事に扱いなさい」ってママに注意されてたっけ。

 

 

お姉ちゃんはピアノやミュージカルも習っていて、わたしはレッスンのたびにたくさん街に出た。

舞台の衣装や小道具を運んだこともあったし、「演奏に使うんだ」って、大きい電子ピアノを乗せたこともあったなぁ。

 

シートを全部倒さないと入らないの。

すごく重かったけど頑張って走ったわ。

 

青空の下の高速道路

家族でお出掛けする時も、わたしはいっぱい活躍した。

身体が小さいから、狭い道でも軽自動車に負けないくらいスイスイ走れるのよ。

 

毎年お正月には、おじいちゃんも連れて神社へ初詣。

お盆やゴールデンウィークには、隣町のママの実家へお邪魔したりもした。

 

お菓子を食べたりお喋りをしたり、みんないつも笑ってた。

 

 

中ではいろんな曲も流れてた。

 

パパとお姉ちゃんは音楽が好きだったから、ロックやアニメのCDをたくさんかけてたの。

前の車ではカセットテープしか聴けなかったから、すごく嬉しかったみたい。

 

宮城県の沿岸

2011年の3月。

ママたちの住んでいた町は、地震と津波で大変なことになった。

 

家族はみんな無事だったけれど、壊れた建物や車が家の近くにたくさん流れ着いて、わたしも本当に悲しかった。

 

 

地震の後、街のいたるところで道路が水浸しになることが増えた。

地形が変わってしまったから、満潮になると海の水が流れ込んでくるんだって。

 

潮水で凸凹になった道を走ったせいか、この年、わたしのお腹は錆だらけになっちゃったの。

下周りが錆びて穴があいた車

それでも、ママはわたしを大事に乗り続けてくれた。

 

お姉ちゃんと弟くんが大学生になって、それぞれお引越しをする時にも、いっぱい荷物を積んで協力したわ。

子育てを終えたママも久し振りにお仕事を始めて、一緒に出勤したり、いろんな施設やお店へおつかいに行くようになった。

 

2013年の夏には、お姉ちゃんが車の免許を取った。

初めて来た時にはまだセーラー服を着ていた女の子が、ついに車を運転できるようになったんだ!ってわたしも嬉しかったなぁ。

 

 

それからわたしの運転席には、ママの他にお姉ちゃんも座るようになった。

 

でも、最初はとっても不安そうにしていたお姉ちゃん。

免許を取ってからも、はじめの一年くらいは、助手席に誰かを乗せないと運転できなかったのよ。

 

やっと一人で走れるようになっても、お姉ちゃんの運転はちょっと危なっかしかった。

曲がろうとすると大回りになったり、家からバックで出ようとしたら、後輪を側溝に落としちゃったり・・

 

大丈夫かなぁ、ってわたしも心配になった。

 

 

だけど何回もわたしのハンドルを握るうちに、お姉ちゃんは運転が怖くなくなったみたい。

 

ママと比べたら、相変わらず荒っぽい感じはするけれど。

でも苦手だったバックも上手くなって、行ったことのない場所にも一人でビュンビュン行くようになったの。

 

小学校の校庭に咲く桜

2016年の春、大学を卒業したお姉ちゃんは、故郷に戻って働き始めた。

 

家から少し離れた場所に会社があるから、ママはわたしをお姉ちゃんに譲って、自分は新しい車を買った。

ほとんどお姉ちゃんのものになったわたしは、毎日一緒にお仕事に出掛けた。

 

 

ただ、この頃からお姉ちゃんはだんだん元気がなくなっていったんだ。

 

泣きながらわたしを運転して帰ったり、夜になっても会社から出てこないこともたくさんあった。

心の病気を治すための病院に通ったりもしていた。

 

家族に内緒でズル休みして、わたしと一日中ドライブしていたこともあったのよ。

 

 

結局、お姉ちゃんは2年後にそのお仕事を辞めちゃったみたい。

でもその代わり、食材や日用品の買い物に行ったり、おじいちゃんやおばあちゃんの送り迎えをするようになった。

 

今までママがしてきた家事を、お姉ちゃんも手伝うようになったのね。

わたしもスーパーにドラッグストア、銀行、市役所、いろんなところに行った。

 

ただ一度、狭い郵便局の駐車場から出ようとして、左側のドアを柵にぶつけちゃったことがあったの。

ドアに傷がついた水色の車

お姉ちゃんはすごく焦ってたし、わたしもぶつかるのは初めてだったからびっくりしちゃった。

ドアに残ったわたしの白いキズを、お姉ちゃんはその後ずっと気にしていた。

 

怒らずに「そんなこともあるよ」って許してくれたママに感謝しなくちゃね。

 

12月の桜の木

年を重ねるに連れて、わたしはだんだん直すところが多くなってきた。

マフラーが壊れたこともあったし、そのたびにパパとママはお金を出してわたしを直してくれた。

 

でも去年、車屋さんに行ったら「次の車検は通らないと思いますよ」と言われた。

 

あぁ、そろそろダメかもしれないな。

終わりの時間が近づいてきてるんだな、とわたしは思った。

 

 

そして、今年の7月。

いつもお世話になってる車屋さんの紹介で、パパとママはわたしを手放して、新しい車を買うことを決めた。

 

古くなったわたしは、もう道路を走れなくなる。

 

 

お別れの前の日。

わたしはお姉ちゃんと一緒に、最後のドライブをすることになった。

 

子供の頃行った思い出の場所に、どうしてもわたしを連れて行きたかったんだって。

 

オムレツやハムなどが入った弁当

わざわざお弁当まで準備していた。

 

ケチャップライスにオムレツ、あとは残り物のハムに漬物・・ただあり合わせの食材を詰めただけだったけど。

それでも「お弁当用意するなんて久し振りだな~」って、お姉ちゃんはすごく楽しそうだったわ。

 

車の窓から見える山

午前も終わりに差し掛かった頃、わたしたちは出発した。

何度も通った街の道路を、一つ一つ踏みしめるように走った。

 

行きつけのスーパー。

家族と出掛けるたびにくぐったトンネル。

お姉ちゃんが通っていた学校やピアノ教室。

 

みんな、本当にありがとう。

 

漁港から臨む海

しばらく走っていると、広い広い海が見える場所に出た。

 

思わず「綺麗!」とつぶやいていたお姉ちゃん。

わたしも感動しちゃった。

 

 

最初の天気予報では雨が降るはずだったのに、外は久し振りにカラッとしたお天気。

雲の間からは青空も見えた。

わたしのボディと同じ色の空。

 

みんなに「お疲れ様」って言われてるようで、なんだか嬉しかったなぁ。

 

車のフロントガラスから見える海

漁港にわたしを停めて、お姉ちゃんは持ってきたお弁当を食べながら、今までのことを思い出してるみたいだった。

 

免許を取ってから、自分が初めて運転した車。

どこに行くにも必ず一緒だったパートナー。

それがわたし。

 

ありがとう。

わたしもお姉ちゃんに乗ってもらえて、とっても幸せだったよ。

 

もっと一緒にいたかったけど、そろそろ旅立つ時が来た。

 

 

走行距離:101194km。

 

15年間、たくさんの思い出をありがとう。

みんな、これからも元気でね。

 

パッソ

 



 

安音です♪

 

というわけで、家の車を買い替えましたよ~というお話でした。

自分で書いてて泣いちゃった記事は初めて(;_:)

 

 

本当に私は運転が下手なので、もっと丁寧に乗ってあげたかったなぁ、と申し訳ない気持ちにもなるんですが。

車を手放すとなって、モノを大切にすることを改めて意識出来た気がします。

 

パッソ本当にありがとう。

最後、梅雨明けした青空の下でお別れ出来たのがすごく嬉しかったよ。

 

水色のトヨタ・ピクシススペース

↑ちなみに、新しくお迎えしたのは軽の「ピクシス」です。

偶然にもパッソと同じ水色カラー。

 

中古車なんですが、前の方がすごく綺麗に乗ってたみたいで、ほとんど新車と変わらないような状態でした。

私も大事にしてあげなくちゃですね(今度はぶつけないように・・)

 

 

皆さんも、ここまでお付き合いいただきありがとうございます。

大切なパートナーと一緒に、この夏も素敵な思い出を(*´ω`*)

 

安音でした、チャオ♪